ナックル暴投ワイルドピッチ

判決については妥当でしょう。
裁判官が被告人に対して心神喪失という判断をしたのなら必然的にこうなります。
裁判官の裁量で決まってしまって良いのか・本当に被告人は心神喪失状態なのか
と言いたくなる人も大勢いらっしゃる事と思います。
しかし―極論を言ってしまえば―
現在の判断材料で本当に被告人が心神喪失なのかどうかは神でなければ分かりません。
最近はそうした病気への認知技術も発達してきてはいますが絶対的な信頼を置くにはまだ厳しい点もあるので。
ある種、神の代理人としての立場を執っているのが裁判官と言えるでしょう。
私個人としては「人が人を裁くのはおこがましいのではないか」
という考えもありますが。
それだけ人を裁くのは責任が重いのかもしれません。
ですから私は多くの方のように「たかが裁判官」とはとても言えない。

また、刑事裁判の本質は被害者への復讐ではないと考えています。
やはり一番の目的は社会秩序維持でしょう。
そこには被害者の鬱憤晴らしというものはありません。
被告人をどのように社会に戻し一般人との調和が図っていけるかと言う事です。
それなら尚の事、今回の被告人に対して厳罰する必要があるという反論もあるでしょう。
しかし、責任無能力者に対して健常者用の刑法を適用しても意味が無い思います。
「効果の無い事をするのは税金の無駄遣いだ。」と言っている人もいましたが上手い表現です。
逆にこうした事は差別行為ではないかという声もありえるでしょう。
私は、決して「不当に取り扱っている」という訳ではないですからそれは無いと考えます。
むしろ法律の条文よりも現在存在している人々の偏見の目こそ
無くすべき差別行為なのではないでしょうか。

被害者をないがしろにしている文章になってしまいましたが
救済の方法としては民事裁判があります。
そこでは被告人（の周囲）に対しての監督責任も問われるでしょうから。
刑事裁判で軽い刑でも民事裁判で多額の賠償金を命じられる事も少なくありません。
尤も裁判に掛かる時間・労力などの問題もありますが。
また、お金で解決するしかないのも苦しい所です。
一番良いのは元の状態に戻す事ですがそれができない場合も多いですし
お金以外の方法は・・・現在は無いですね。

法律関係に関してはこれくらいにして精神病の観点から考えてみる。
今回の判決に対して感情的になるのは分からなくも無いですが
その中で「こうした精神病患者は隔離してしまえ、邪魔だから虐殺してしまえばいいんだ。」という声があるのが何とも。
私には重度の精神病を患っている叔父がいます。
昔は私も上の声に少し近い過激な考えを持っていました。
でも、結局これは現実を省みない「逃げ」の考えなのですよね。
全ての精神病の方をこのように悪と纏めてしまう深刻な思考停止で。
現実問題として社会でこうした人が増えつつあるのにそれを直視しようとしていません。
これからの高齢化社会でも同じような事を言う人がいるような気がします。

また、今回の事件を聞いて「いつか自分がこうした人に殺されるかもしれない。」と言っている人は多いですが
「ある日、自分が精神病を患い人を殺してしまうかもしれない。」と心配する人がほとんどいないのは不思議です。
自分にはこうした病気とは無関係だと思っている方も大勢いるのでしょうか。
私の親は叔父の事から私（と兄）がこうした病気になるのではないかと恐れていました。
私自身も叔父の事実を知った時、この恐怖にさいなまれていました。
さすがに今では克服できたと思っていますが果たしてどうなのだろうか。
いきなり精神病だと告げられて愕然とする人もいます。
「強い心を持てば大丈夫」と自分に言い聞かせていますがそれで解決できる問題でもなし。
逆に自分が完全に失われればそれはそれで幸せなのかもしれません。
山月記の虎となった李徴のように。

今回の判決に対して「可愛そう・理不尽だ」という感情を抱くのは分からなくもありません。
特に被害者にとっては酷な事でしょう、非難の声を遮る事などできはしない。
ただ、今回の判決は私にそうした感情を越えた物を考えさせてくれました。
（恐らく被害者側が控訴するでしょうから）これからの裁判で判断が180度変わる事も考えられます。
そうした点は注目に値すべき事となるでしょう。

※参考サイト※

心神喪失で無罪～刑法３９条再考　１
刑法３９条再考　２
刑法３９条再考　３（完）
精神病を恐れて精神病者を憎まず
精神障害で心神喪失の状態にある人が悪いことをしても処罰されないのは、なぜですか？